地震発生帯における H2O 流体の作用
地震は地下の断層運動によって起こりますが、日本列島のような島弧では震源分布は地殻の上半分でしか起こりません。これは岩石が地下の高温高圧条件になると軟らかくなりヌルヌルと流動する性質をもつようになるからです。この変化を脆性‐延性遷移とよびます。ところがプレートの沈み込み帯ではもっとずっと深い場所で地震が起きることが知られていて、そのメカニズムについては今も議論が続いています。私たちはその中で、「水」の役割に注目しています。沈み込み帯では含水マントル物質(蛇紋岩)の脱水反応などによる水循環があり、これが破壊や摩擦などの力学特性に大きく影響を及ぼしているのではないかと考えられるのです(左下図)。私たちは地震発生にいたるメカニズムを知るため、高温高圧変形実験によって応力‐歪曲線を求め、変形の物理化学素過程を調べています。右下は実験試料中でおきた脱水反応(蛇紋石 Atg = カンラン石 Fo + 滑石 Tc + H2O) を示す電子顕微鏡写真です。
断層と摩擦構成則
断層すべりを支配する断層面上の摩擦法則を表すものとして、古くからアモントン・クーロンの法則が知られていて、摩擦係数は多くの岩石について乾燥状態では 0.6-0.8 程度であることが経験的に知られています。しかし、なぜそのような値になるのか、摩擦の物理メカニズムもまだ謎のままです。一方、粘土鉱物や蛇紋岩などの含水鉱物は、これより著しく低い摩擦係数をもつことがわかってきました。左下は海洋地殻の変成作用などでできる含水鉱物の一種である緑泥石で、これを粉砕した人工ガウジは高圧熱水環境下でも 0.3 程度の小さな摩擦係数を示しています(右下)。摩擦係数は一定値ではなく、滑り速度によっても変化しています。摩擦のこのような性質を表す速度状態依存摩擦構成則は、地震発生サイクルシミュレーションが最近さかんに用いられています。しかし地殻深部やプレート境界に相当する高温高圧状態での断層の状態は地表とは全く異なるため、現実の摩擦パラメーターの値には大きな不確定性があります。そこで私たちは世界最高の耐圧性能をもつ摩擦試験機を開発し、断層の真実接触面における素過程から、摩擦構成則の物理的な意味を理解しようと考えています。